【ミライロしごと図鑑】株式会社岡野

この度、福岡商工会議所とNPO法人学生ネットワークWANがコラボし、福岡商工会議所会報誌の新コンテンツを制作することになりました!

その名も「ミライロしごと図鑑」!!

次世代を担う学生が福岡という枠組みに囚われずに面白い取り組みに挑戦する企業を取材し、会報誌の記事を作成します。
また、会報誌とこの「ガクログ」は連動しており、本メディアでは会報誌にはおさまらなかった写真、学生向けのキャリアや働き方についての話をご覧頂けます。
記念すべき第1回目(会報誌4月号)は、株式会社岡野さんを取材しました!

今月の取材先:「株式会社岡野」 とは?

今年、設立から121周年目を迎える博多織の織元。現在は着物全般のアイテムを取り扱っており、多段階流通が多い業界の中で、初めて製造と小売を自社で一貫させる。昨年は六本木ヒルズとGANZA SIXに店をオープン。777年の歴史をもつ、伝統工芸品「博多織」を世界のハイブランドとして提供することに挑戦している。
今回取材に協力して頂いた方) 株式会社岡野 代表取締役社長 岡野博人さん

「まずは博多織で、<利益・評判・品質>この3つで日本一「13年間の赤字経営からの脱却。世界ブランドを目指す。」

(東京で起業した岡野さん。お父さんの影響から会社を引き継ぎます。)
赤字から抜け出すために、最初に人員整理をしたとお伺いしました。ずっと働いた人にやめてもらうのは、すごく大変そうです。

会社は、潰れてしまうとそこで働いている人全員の拠り所がなくなってしまいます。当時、岡野は能力として7人乗りの船に14人乗っている状態だったので沈没しかけていました。だから、全員死ぬか、残る人だけ残って新たな販路を開拓していくことにかけるか、もうそれしかありませんでした。

実は追い込まれている状況を共有しているときこそ、経営者は社員に一番話しやすいです。会社が儲かっているときは、みんな危機意識がありません。しかし、トップは常に、「今はよくても3 年後5 年後にどうなるかわからない」という危機意識をもっています。そうすると、今から手をうちたいんです。しかし、社員にその危機感がないと聞く耳をもちません。
ところが、会社が廃業するかもしれないっていう意識を共有していると状況は違います。だから、話を聴いてくれるという状態はできていました。そういう意味ではそこまで大変ではありませんでした。あとは、誠心誠意正面から話しました。

その後、「エルメスのような世界ブランドになる」という長期的なビジョンができたんですよね。

やはり、人間はビジョンがあると士気があがります。例えば、「毎日あと10 年間雨です」と言われたら嫌ですよね。「今日は雨でも明後日は晴れる」という期待値があるからこそ人間って頑張れるわけです。当時、うちの伝統工芸の会社は未来に希望がありませんでした。だから、希望になるビジョンが必要でした。会社の大きい小さいに関係なく、ビジョンを立てることが僕は一番大切だと思います。

ビジョンのヒントは世界的な有名ブランドがどうやって生き残っているかでした。かの有名なエルメスの最初は、馬具のメーカーでした。しかし、車が普及すると馬車に乗る人は減り、当然馬具は売れません。そのため自分たちのもっていた(馬の上の座るときに使う)鞍を縫う技術を使って「オータクロア」というバッグをつくりました。
それが、たまたま世界で評価されて、今のエルメスになっています。では、日本の伝統工芸の生き残り方はなんなのだろうと考えました。その一つが「エルメスのようなハイブランドになる」ということです。伝統工芸も世界の市場の中で自分たちの技術を付加価値として買ってくれるような方々を相手にした商売に切り替えていく必要を感じました。私は着物を着る人がこれから増えるとは思っていません。だからこそ、着物ではない世界の人が身に着けているもの、スカーフやネクタイを博多織でつくって販売しています。

ビジョンを立てたとき、「無理でしょ?」といったネガティブな意見はありましたか?

もちろん、ありましたね。だから、「世界ブランドになること」を方針として決めて、社内に発表した後、スモールステップを考えました。
方針として決めて、社内に発表した後、スモールステップを考えました。「まずは博多織で、<利益・評判・品質>この3つで日本一になりましょう」と。
僕は「世界ブランドになる」というモチベーションで動いていますが、現場はそれだとイメージがしにくいので、「社長がなんか言っている」くらいの認識をしてもらっています。

今は、一番になりつつあるという感触があるので、今度は「着物で一番になること」に挑戦しています。これを早く仕上げたいです。
その次は日本で一番のブランドになり、最終的には世界ブランドとして成功したいです。

着物というと平安時代の印象が強いですが、2018 年のブランドテーマは「縄文時代」でした。
なぜそのテーマにされたのですか?

実は今、縄文時代から続いている日本の文化が大事なのです。
日本では縄文時代が12,000 年くらい続きましたが、弥生時代からはまだ2,000年くらいしか経っていません。
日本って、80%くらい縄文時代なんですよ。
僕は、みんな弥生時代以降の日本の話をしていて、長く続いた縄文時代の話はしてないような気がして、バランスが悪いなと思うんです。
縄文時代は、12,000 年の間に一度も戦争の形跡がないんです。
なぜなら、その時代の人々には、自然をいじらず必要なものだけをとる知恵があったからです。
しかし、弥生時代になると田んぼや畑をつくり食糧を備蓄するようになります。
すると食糧をいっぱいもっている人ともっていない人の間に格差が生まれて戦争が起こるようになりました。
さらに、森林を伐採して土地を増やし、川の流れを変える灌漑など、自然破壊を行うようになりました。

現在、限られた地球の資源をみんなでシェアしないといけない閉鎖系の世界に突入しています。
その「閉鎖された中でいかに効率よく、みんなでシェアしていくか」が人類を存続させるカギです。
実は、縄文時代の人もお互いに必要なものを分け与えていたんです。
日本の「縄文時代」はこれから世界の人達に一番響く哲学になるんじゃないかなと思います。

岡野さんの今までのお話やお店の商品・作品を見ると、伝統や歴史を大事にしながらオリジナリティを保つこだわりがみられます。そのようなこだわりを追求する企業風土はどうやって根付くのでしょうか?

「伝統」の意味をしっかりと考えています。
「継承」「伝統」「伝説」「神話」の4 段階があります。
「継承」は1を1で伝えることです。
「伝統」は、<伝えて統合する>という意味です。この字の意味には古いものを受け入れて、<新しい時代のなにかを付け加えて次に伝えなさい>という意味が含まれています。
「伝説」は、思わず人に話したくなるようなことです。より多くの人に広まります。
「神話」は、神社ができて、みんなが拝みに来てお金も払ってくれる、最高の世界ですね(笑) 僕は、伝統を守るために、伝統をつくるのではなく、伝説をつくる試みをしています。

「続けることに意味があるんですか?」という質問がたまに来ますが、皆さんがなぜ生きているかというと、命が続いてきたからでしょう。
命がずっと途切れなかったからこそ、今があるとするなら、「続く」ってそれだけで素晴らしいことじゃないでしょうか。

だから、続けるというプロジェクトに参加するのはすごく価値のあることだと思っています。
僕にとっては「文化」を続けることが凄く大切です。「文化」とは、<世界中に気候風土があり、その土地にあわせた暮らし方があり、多種多様な道具がでてくる>、これが連続的にずっと続いていくことです。
文化は多様性ですが、文明は画一性です。この両方はどちらも大事ですが、今は文明に力が入りすぎているから、文化を大事にしてバランスをとらないといけないのです。
文化はやるか・やらないか、文明はできるか・できないか。人類を滅ぼすことは今文明的な捉え方をすると、化学兵器などを用いて簡単にできます。
でも、文化的なとらえ方をするとしない。
その選択には、人間の意思があります。もっと文化を保つ意思表示を大事にしていかないといけないのではないでしょうか?

最後に、岡野さんの職場では、日本で最年少の女性伝統工芸士の輩出など、若い人も活躍しています。人材育成で気を付けていることはありますか?

人は、育てることはできません。自ら育つものです。
気づかせてあげる場をきちんと提供してあげればいいのではないでしょうか。
それは社内にあっても社外でもいいです。仕事より人生のほうが明らかに大事ですからね。
その人が人生をどう生きるかを真剣に考えればいいと思います。

社員の中で夢のスケールの大小はありますが、そのスケールの中で覚悟して目の前のことに、取り組んでくれていれば十分です。

いかがでしたか?
ここからは、会報誌には入りきらなかった内容ら、学生に向けていただいたお話をご紹介します!

【「儲かる」ではなく、「成り立つ」に挑戦する。】

最初は東京で起業した岡野社長。当時は赤字続きだった「株式会社岡野」を継ぐ、キャリアのきっかけとなったものは何でしょうか?

大学生のとき、少しだけ経済学と経営学を学んだのですが、その時使った教科書に会社の目的は「利潤の追求」と書いてあったことを信じて、「世の中に出て儲かればいい、利益が出ればいい」と思いながら、起業して事業を行っていました。
しかし、やっているうちに、「本当に利益の追求をすることだけが経営なのかな?」と疑問を感じるようになりました。

そんな中ある日、職人の父親に「ずっと赤字続きで廃業せざるを得ない」という話をされたとき、「赤字だから、倒産するんだよね。仕方ないよね。」と私は当たり前のように答えたんですよね。それに対して父は、「でも、長年続いた伝統は儲からなくても誰かに残していかなきゃいけないものだよ。赤字だけど、成り立てばいいじゃん。」と話しました。
このとき、「成り立つ」と「儲ける」という感覚は似ているが違うのだと、はっと気づきました。

今世界に存在しているベンチャー企業は長くて設立30年くらいです。
一方で、世界で一番古い会社は日本にある「金剛組」という会社で、飛鳥時代から1600年続いています。実は、設立から200年以上経つ会社は、ほぼ日本にしかないんです。
少し話は変わるのですが、ダウ平均株価って知っていますか?
ダウ平均株価とは、米国の平均株価指数です。1896年にダウ・ジョーンズ社が、当時米国を代表する12社(現在は30銘柄)を選定し、平均株価を算出・公表しました。この選出された12社は<成長持続性が今後も見込まれる超優良企業>とみなされていました。
当時選ばれた会社の中で現在、何社残っていると思いますか?
実は一社しか残っていないんです。
(※残った一社は、ゼネラル・エレクトリック社を指す。2018年現在も選出されているが、除外されていた時期もあった。)

このことから、短期スパンで儲かることを重視する今の資本主義経済の理論にのっとったやり方だと「会社は長く続かないもの」だとわかりました。
とはいえ、その経済の仕組みが本当に良いものなのか疑問でした。
資本主義のシステムによって、日本の伝統的な文化が「古臭い・なくなってもいい」ものとして扱われている現実があったからです。
父親の言葉をきっかけに、みんなが守ってきた「伝統文化」というものを自分も守ってみようかなと思うようになりました。

それから、自分が持っている東京の会社を売却して、そのお金を軍資金にし、株式会社岡野にて事業を開始しました。
ただこれまで岡野がやってきた博多織の製造や売り方ではやっていけないので、ここで、超有名なブランドであるエルメスやルイ・ヴィトンなどを例に、今あるブランドはなぜ生き残れたのかを徹底的に調べたのです。

旅行は先に目的地を決めて、一番近くまで行く交通手段を探しますよね。就職活動もそれと一緒です。

社長として、様々な社員を見てきた岡野さんにとって、学生に伝えたい生きていく上で大切なことはなんですか?

人は、気づかせてあげる環境を与えると自ら育つものです。
それが仕事であっても仕事にでなくてもいいと思っています。
仕事より人生のほうが明らかに大事です。
人生と仕事がイコールになっている人も中にはいます。
大切なことは、その人が人生をどう生きるかを真剣に考えることです。

就活生はどう生きるかという目線ではなく、どこに就職するかの目線になりがちですね。

そうですね。就活の時期って、一番マインドコントロールされやすい時期ですね。
生まれてから大学までは言わば決まった川の流れにどう乗るかという話で、速い人もいればゆっくりな人もいましたよね。
そして最終的に、流れに身を任せるだけでよかった川は海に着き、自分で漕ぐ、すなわち自分で生きていかなければなりません。
しかし海(社会)では自分でエンジンを持たないと押し戻されてしまいます。

そのような状態の中で、いかだもあれば豪華客船、軍艦といった、たくさんの船(企業)の中から選び乗ることができます。
大学生になると、どれに乗るかをみんな選ぼうとしますよね。
僕は「他人の作った船は信用できない」と自分でつくってしまいますが(笑)
そういう人もいていいですし、乗るのもOKです。

大事なことは「その船がどこに行くか」です。
船は目的地に行くための単なる乗り物です。
しかし、「大きいしかっこいいからとりあえず飛び乗ってみたけど、これどこに行くんですか?」というように、目先のことしか考えていない人が多いような気がするんです。
旅行は先に目的地決めて、一番近くまで行く交通手段を探しますよね。それと一緒です。

とはいえ、、大きな船には安心感がありますよね。
いざ乗って、例えばエンジン整備室を任されたとしましょう。
そこで10年間ずっと働いて暮らします。
しかし、太平洋の真ん中で、「ごめん。定員オーバーだから小舟に乗って降りてくれ」といきなり言われると、その人は海図すら読む技術が身についていなくて苦労してしまうんです。

それが、以前起きたリストラの問題です。
この問題は、そういう社会システムに乗ってしまった人にも責任はあるし、大量生産を促した国にも責任があります。
僕は、そういった社会システムを常に俯瞰して見ています。
社会の全体を俯瞰的に見る・目先だけでなく、人生をどう生きるかを真剣に考えることが必要なのではないでしょうか。

確かに、自分の人生をどう生きたいか と考えず、「ひとまず就職活動を乗り越えよう。」と目先のこと囚われがちかもしれません。
人生の縦軸と現在の社会基盤の横軸の両方を長く広い目線で見ることの大切さに気づきました。岡野社長、ありがとうございました!

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